さまざまな要素を取り入れ、多様性にあふれ、ちょっぴりエキセントリックなロンドンは、アート、音楽、食べ物、建築に歴史が息づく、真に多面的な都市です。様式と構造のパッチワークが無秩序に広がるこの街では、今にも壊れそうなチューダー様式の木造家屋が近代的な高層住宅に挟まれているのが見られます。タワーブリッジやビッグベンなどの名所と競うように、近未来的な高層ビルがそびえ立ち、スカイラインの一部を形成しています。街中では、それぞれ独自の個性を持つ地区が互いに張り合い、境界をはみだして陣取り合戦を展開しています。

このイギリスの活力あふれる文化とお祭り騒ぎの首都は、世界中のあらゆる場所からの影響を受け、グローバルコミュニティを構築しています。カーニバルが色彩を爆発させ、スパイスの香りがブリックレーンの通りを満たし、ブリクストンでは、ジャークチキンがジュージューと焼けるスチールグリルから、煙がモクモクと出ています。絶えず変化し、適応し、成長するこの街に同じ瞬間はふたつとしてありません。ニュージャズの拠点ペッカム界隈からソーホーのナイトライフ、ショーディッチのグラフィティだらけのストリート、クラーケンウェルのデザイン保護区、ハックニーの心休まる水路まで、すべての人にそれぞれふさわしいロンドンがあります。ここでは、この街には何があるかをコンパクトにまとめてお届けします。

東はタワーブリッジから西はウェストミンスターブリッジまで伸びる有名な川沿いの遊歩道、サウスバンクをそぞろ歩けば、「映画そのまま」の気分を味わうことができます。ロマンティックな気分で散歩するにも、景色を楽しみながらランニングするにもぴったりです。とりわけ素晴らしいのは、空の色が徐々に変化し、街の灯りがともり始める夕暮れどきです。観光客が多いと言えばそうかもしれませんが、スカイラインがきらめきを放ち、輝く空にビッグベンの影がシルエットを描くゴールデンアワーにウェストミンスターブリッジを渡る感動は、決して古びることはありません。

1950年代、ブルータリズム建築が戦後のロンドンを席巻しました。風景のそこかしこに見られる厳格なライン、繰り返されるパターン、むき出しのコンクリート構造は、50年代を特徴付けるものとなりました。実用的で、非友好的で、ものものしいブルータリズムは、「人気があるとは言えない」という姿勢で迎えられ、多くの人から当代の目障りなものと見なされました。しかし、半世紀が経った今、ブルータリズムは敬意を受け、愛情すら抱かれており、多くの書籍、展覧会、プロジェクトがそのデザインに捧げられています。最初に触れるブルータリズム建築としては、街を横切るジグザグラインの中に見つけることができるバービカン・エステートほど良い場所はないでしょう。

サマセット・ハウスは、18世紀に建設された新古典主義の大邸宅として存在していますが、このアートセンターで行われるアートプログラムや文化プログラムは、紛れもなく未来的です。ダイナミックなイベントの数々は、現在を解剖し、新しい世界へと目を向けます。近頃では、気候変動について考える展示や、黒人の創造的パイオニアたちの作品に目を向ける展示を行っています。また、新進アーティストの創作を支援することにも力を入れています。ここでは、季節を問わず、行事予定表に何かしら興味深いものを見つけることができるでしょう。

アーノルド・サーカスの緑豊かな通りに佇むロシェル・カンティーン（Rochelle Canteen）は、ひそかに英国モダン料理の最高峰を代表するレストランです。日替わりの季節限定メニューは、最高品質の地元産作物をふんだんに使い、ひとつひとつの素材本来の味を引き出すような、優しいけれども巧みな調理をほどこされています。島東部の海岸で獲れたばかりのシーフードには丸々としたシチリア産トマトを加え、ラムショルダーとグラスフェッド・ビーフの蒸し煮を詰めたボリューム満点のパイは、バターを加えたポテトとハーブを添えて供されます。プディングや、ひょっとしたらカスタードを塗ったクランブルパイのために、お腹の余裕は残しておきましょう。食の喜びに満ちたこの隠れた中庭は、ランチだけのつもりで行ったのに、帰りの予定を大幅に過ぎてもまだ居座っていて、デザートを2品、その後はワインを「もう1杯だけ」ということになるような場所です。

「ザ・ウォルズリー（The Wolseley）」は、メイフェア地区のピカデリー通りの中心にあり、これぞロンドンというべき店舗です。重厚な店内の総大理石の柱や華麗なアーチ路は、往年の華やかさを感じさせます。その壮麗さにもかかわらず、スペースは居心地が良く、1日中どの時間帯でも地元の人や観光客で賑わっています。ただし、ブレックファーストには特に大勢の人が詰めかけます。実際、これは見逃すわけにはいきません。美味しいペストリーやカットしたてのフルーツのほか、よりボリュームのあるフワフワのフレンチトースト、エッグベネディクト、そして、「英国式朝食（The English）」（卵、ベーコン、ソーセージ、ベークドビーンズ、トマト、ブラックプディング、マッシュルーム）が用意されています。ポット入りの紅茶と朝刊を添えれば、完璧ですね。

パンデミック以前、イマッド・アラーナブ（Imad Alarnab）は、一連のポップアップレストランでロンドンっ子たちの心をつかみました。それもそのはず。彼はかつて、ダマスカスで3つのレストランを開いていました。その後、シリア内戦で店が破壊され、避難を余儀なくされたのです。フランスのカレー経由で英国に渡ってきた彼は、道中で難民のために料理をし、人々を結び付ける食事の力に安らぎを見出しました。ソーホーのキングリー・コートに開いた新しい常設レストラン「イマッズ・シリアン・キッチン（Imad’s Syrian Kitchen）」は、分け合って食べる生き生きとした料理が特徴です。たとえば、ザクロの実をトッピングしたクリーミーなババ・ガヌージ（Baba Ghanoj）や、得意料理であるラム挽肉のファテ・マクドス（Fattet Macdous）です。自身の旅路を忘れないため、イマッドは、1回の勘定ごとに1ポンドを難民支援団体「Choose Love」に寄付しています。

映画にも出てくるイーストロンドンのコロンビア・ロードは、その歴史を1860年代にさかのぼります。ビクトリア時代の店や家屋は、現在も地元の生活に生き生きと息づいています。平日は静かで穏やかな通りも、日曜日のフラワー・マーケットの間は活気づき、賑やかな音や色彩で一気に華やぎます。地元の人のように季節の花束を買って、韻を踏んだコックニー言葉を覚えてみてはいかがでしょう。屋台では現金のみなので、「ブレッド・アンド・ハニー」（マネーのこと）をお忘れなく。

ノッティングヒルには、テラスハウスに囲まれた丸石敷きの中庭や門のついたアーチ路など、ミューズ（馬屋小路）がたくさんあります。元々は、かつてのロンドン上流階級の人々を運ぶ馬車を停める厩舎として造られたものですが、これらの馬屋は今の時代に合わせて住居に改造され、羨望の的となっています。是非とも一度は訪れて、絵葉書のように素敵な写真を撮りたい場所です。パステルカラーの明るい外観のものから、クリーム色と錬鉄のエレガントなものまで、花々や緑のツタに飾られており、さまざまなスタイルに夢中になりそうです。古風で、可愛らしく、いかにもイギリス的なミューズの美しさを堪能するなら、地図を見て、コールヴィル・ミューズ（Coleville Mews）、デンビー・テラス（Denbigh Terrace）、オステン・ミューズ（Osten Mews）、ハイドパーク・ガーデン・ミューズ（Hyde Park Garden Mews）を訪ねてみてください。

ジャズの復興は、ロンドンを超えて広がっていますが、そのルーツはサウスイーストロンドンにしっかり根付いています。ここでは、多くのドアの向こうから、サックスや弦楽器のソウルフルなメロディーが立ちのぼってきます。ニュージャズの動きの先頭に立つのは、若い世代の人々です。彼らは、共同作業をし、ジャンルを超えた影響を取り入れて、独自の新しいサウンドを作り出しています。定評あるミュージシャンや新進ジャズマンの演奏を聴くなら、ペッカムの「CLFアートラウンジアンドルーフガーデン（CLF Art Lounge and Roof Garden）」がおすすめです。情熱的でレトロなスタイルのカクテルラウンジでは、定期的にギグが行われています。毎週日曜日には、屋上でジャズとソウルのライブセッションが開催されます。ここに来たら、ゆっくり座ってリラックスし、おしゃべりは音楽にまかせることにしましょう。